鮮血のディスカッション

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オーディンがそう言った直後、半壊した闘技場に一陣の風が吹き込んだ。 その時、柳生一心は上から吹き付ける風を肌で感じていた。 それが自然の風でないのはすぐに解った。眼下にいる龍人を守護するかのように、渦を巻いて柳生を近づかせないようにしている。 徐々に風圧が増し、小さな竜巻が出来上がる。龍人の姿はその中に隠れて見えなくなってしまった。 見えない力を前に、柳生はその場にい続けることもできなかった。ずるずると半歩ずつ距離が開いていき、五メートルほど後退したところで……風が晴れる。 柳生の目には生気がほとんど感じられない龍人の姿が映った。そしてもう一人、龍人を抱きかかえる男の姿が映った。 前髪を後ろに持ってきた黒髪、きりっと開いた漆黒の瞳。歳を重ねたことでにじみ出る渋みと余裕が重ね合ったその顔立ちからは、大人特有の色香を感じ取れる。 男は小汚い清掃員用の作業服を着ていたが、まったくと言っていいほど似合っていなかった。見立てるに、社交界に出るような紳士的な服装の方がよく似合っているように思う。 闘技場内をぐるっと見回してから男は呟いた。 「……これはまた、ずいぶん暴れてくれたものだ。後で業者に改装工事の中止と、一から立て直してもらうよう連絡しないと」 直後に男の顔が柳生に向く。 柳生は知っている。この男は、ここ鳳城魔術学園の理事長兼学園長の鳳城騨歩であった。 「やあ少年。先刻ぶりの再会だね」 「? 何言ってやがる。先刻も何も、俺とテメェは今初めて会ったばかりじゃねぇか」 「いいや。これで二度目だよ。まあ、この姿で会うのは初めてだけれどね」 こうすれば分かるかな? と鳳城は咳払いして声の調子を確かめるような仕草をする。 対面するのはこれが初めてで間違いないはずだ。しかし柳生は、鳳城から伝わってくるこの得体の知れない悍ましい感覚をつい最近どこかで感じたことがあるような気がしてならない。 どこかですれ違ったのかと一瞬考えたが、直後にその答えを知る事になる。 「ヴうん……ほっほ。これで分かってくれるかのぅ『鴉』殿?」 「その声、それにその話し方……なるほど。あのジジイは『変装(トランス)』したテメェだったのか」
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