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それに対し、鳳城はしわがれた声を元の渋い声に戻して答える。
「ふふっ。この事は内密に頼むよ。一応生徒や教師達には私とその老人は別の人物という事になっているからね」
これで合点がいった。柳生は小さく舌打ちし、
「……なるほどな。しかしテメェがここにいるって事は、あの銀髪野郎はやられたのか?」
「んー。キミのお友達を倒したのかと訊かれれば、答えはNOだ。キミがいなくなった後、彼は魔神を残してさっさと逃げてしまったよ」
「そうか。で? その魔神をぶっ潰してここに来たって事は、今度は俺とやり合う気なんだな?」
「そのつもりはまだないよ。まだね。私がその気になるかどうかはこれからのキミの態度次第だ」
そう言った瞬間、鳳城の体から見えない何かが噴き出した。
威圧でも敵意でも殺気でもない。そもそも鳳城は柳生を『学園をメチャクチャにした敵』などと思っていなかった。言うならば、それはただそこにいるという『存在感』だった。
「少年。今日のところは私の顔に免じて帰ってくれないか?」
微笑と共に柳生の瞳をまっすぐ見据えて、鳳城は言う。
「これから私は子供達の面倒を見てやらないといけないんだ。特にこの九能くんは、早く処置してあげなければならない」
「………」
「もちろんただでとは言わない。今日キミがした事はすべて不問にしよう。被害者や目撃者には私から説明して、絶対に警察沙汰にはしない。絶対に、キミのマイナスになるような事はしない」
「……そんな言葉が信じられると思うか?」
「だったらこれは『約束』だ。もし破られた時は私のところに来るがいいさ。おいしい茶菓子を用意して待ってるよ」
「『約束』ね……」
柳生は、鳳城の言葉に嘘偽りはないと思った。
鳳城は柳生が『鴉』だという事を知っている。その上で『約束』しようと言ってきた。つまりそれだけ本気だという事が解る。
「九能君とした『約束』がある手前、私と戦うというのならそれもいい。でも、キミはそんな事しないよね? キミは相手との実力差が解らないような馬鹿な子じゃないはずだ」
「………」
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