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そこで一拍溜めてから、人工知能は尋ねた。
『……なあ主よ。貴方は、本気でクノ少年が勝つと思っていたのか? 魔神だけ残してさっさと逃げたのは、彼が殺される前に鳳城達を間に合わせたかったからじゃないのか?』
「ははっ。ずいぶんと買い被られてますね。けれどそこまで考えていた訳ではありませんよ。あれはただ逃げるしかなかっただけです」
『……そうか。主がそう言うのなら、そういう事にしよう』
「そうしてください。……しかし、」
くすくすと笑っていた銀男だったが、そこで彼の瞳がわずかに濁る。
「楽しみにしていたショーも、とんだ茶番でしたね。これでは骨折り損のくたびれもうけですよ」
『だから主よ。さっきも言ったがクノ少年が勝つ確率は──』
「勝敗なんてどうでもいい」
人工知能の発言を遮って銀髪の男がとても冷めた口調で言う。
「私が見たかったのは彼の全力です。彼が全力で一心君と戦う様を、私は見たかったんですよ」
『? 主は何を言っているんだ。クノ少年は全力で戦っていたじゃないか』
「いいえ。九能君はまだ十分に余力を残していました。その証拠に、」
と、何か言いかけて。
パタン、と銀髪はPCを閉じてしまった。同時に人工知能が機能停止してしまった。
銀髪の男が言わんとした言葉の続きは、誰にも届かないまま、虚空に溶けて、消え失せた。
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