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僕には一体何が足りないのだろう?女性に対するエスコートやら、プレゼントやら、サプライズやら何やら、完璧にこなしてきたつもりだ。
そして昨日も彼女との雰囲気は良かった。でも『キス』が出来ない。もう半年は経つというのに。
普通なら、いや、普通の定義というのが僕にとっては曖昧なのだけども、一般的に彼女とキスが出来てもおかしくない。
もし好感度パラメータがあるというのなら僕と彼女に関しては突き抜けているはずだ。
僕には一体何が足りないのだろう?
「ねぇ?そんな深刻そうな顔してどうしたの?」
ここは昔ながらの古風なバス停。彼女とはここで初めて出会った思い出深い場所。毎日毎日顔を合わせているうちに自然と挨拶するようになり、会話するようになって、付き合うようになった。そんな思い出が詰まった場所。
「えっ?いやぁ、……今日朝何食べてきたっけって思い出しててさ」
彼女から顔を覗き込まれ慌てて言葉を探した。何だか自分の性格が滲み出ているような。
「ふ~ん。変なの」
どうでもいい事を聞いてしまった。そんな様子で彼女は雨が降りしきる曇り空に目を移す。ここに着いてから降り始めた雨は何だか僕の心を映したよう。「でも君らしい」
彼女はいつもマイペース。それが僕には何だか居心地が良くて、しばしばその横顔に見とれてしまったりもする。
「……今日はバス遅いね。どうしたんだろ?」
「たしかに」
いつもより遅い。もう20分は待たされているのではないだろうか?
「ねぇ。どうせ二人共仕事に遅刻だろうし途中まで歩いて行こっか?」
提案したのは彼女。そう微笑みながら言われると拒否出来ないのがある意味幸せなのかもしれない。
「それもそうだな。それじゃあ傘を……ってあれ?傘がない。しまった!?家に忘れた!」
せっかく彼女との距離を縮めれると思ったのに!
「いいよ。私が持ってるから」
面目ない気分で一杯だった。
「ほら、入って」
「でも小さいし、濡れるよ」
「いいから。入りなよ」
「悪い」
仕方なく僕は、言われるがままに背を縮めて彼女の傘の中に入る。彼女はお世辞にも背が高いとは言えない。
「やっと君に近づけた。君は完璧過ぎるの。だから届かなかった」
と、突然彼女はキスを奪う。僕は何が何だか分からない。
「高かった……」
そして、動転する思考の中、僕に足りなかったのは彼女からの優しさだった事に今更ながら気付いた。
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