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「あんたまだ生きてたのか?」
「久しぶりに来たと思えば、随分な言い草だなじいさん。」
「はっはすまんすまん。つい、な」
久しぶりに訪れた若いお侍に、このような言葉を投げてしまうのも無理はない。
このお侍は何を隠そう、とあるお堂に封じられた妖怪に、48ヵ所を食いちぎられヒルコとしてこの夜に産まれ落ちた。
そして40以上の妖怪を殺し、実の父や弟までその手にかけて身体を取り返した。
その血生臭い生き様が変わる事もなく、妖怪を切る仕事を続けている。
このような生き方では、長生きなど望む事も出来ないだろう。
百鬼丸。それが何匹もの魑魅魍魎を屠った豪傑の名である。
だが本人の顔立ちや身体付きを見ると、少々目付きが悪いとは言え子綺麗な物だ。
「そういえば、あの坊主の姿が見えねぇがどうした?」
「どろろか? あっちに居るだろ?」
百鬼丸は、旅衣装の若い娘に指をさす。
「何言ってんだ? ありゃあ娘さんじゃねぇか」
そんなやり取りをしていると、娘が近付きながら声を挙げる。
「おーい兄貴ぃ! 置いてくなんてひどいよ!」
村のじいさんは、目を丸くして百鬼丸と娘を見る。
「おめぇさん本当にどろろか?」
「なんだよおいらがどろろじゃ、いけねぇってのかよ」
じいさんに疑わしげに見られると、どろろは頬を張り子の様にぷぅっと膨らませてしまった。
「まぁまぁ落ち着けどろろ」
百鬼丸は、娘を宥めながらじいさんに本題を切り出す。
「そんでだじいさん。しばらくどろろを預かって欲しいんだ。体力はあるからこき使ってやってくれ」
「わしゃあ構わんが……、坊主の方が」
むくれていたどろろが、話しを割って入る。
「い、や、だ! どうせ兄貴はおいらを置いてくつもりなんだ!」
「置いてかねぇよ! 今回のは本当にあぶねぇんだ!」
「自分でなんとかするよ! おいらを舐めんな!」
「無理だ!」
「無理じゃない!」
無理と無理じゃないを言い続ける二人に、呆れた老人が口を挟む。
「どこに行くのか知らんが、百鬼丸。終わったらすぐに帰ってくる様に路銀を置いて行けば良いんじゃねーか?」
「どろろそれで良いか?」
「嫌……」
「良い加減聞き分けろ!」
「嫌なもんは嫌だ」
この時、老人はどろろの心中を察した。
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