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村長はポンッと手を叩くと、思い出した様に尋ねた。
「そういえば山伏どのの、お名前をお伺いしていませんでしたな」
しばし沈黙が流れる。
お互いに眼を合わせ、苦笑いを浮かべると百鬼丸が話しだす。
「度々、失礼致しました。私は寿海と御呼び下さい」
百鬼丸は育ての親の名前を、偽名として使うことにした。
「それでは、寿海どのと御呼びしましょう。申し訳ございませんが巫女と会わせる迄、お時間を頂きたい思います」
「はい。それは構いませぬよ」
「昼間は禊ぎの儀式を行っておりますので、お部屋をご用意しますので夕刻までお待ち下さい」
そういうと村長は、パンッパンッと手を叩き先ほどの女性(お松と言う名らしい)を呼んだ。
「それではこちらで、おやすみ下さいませ。時間になりましたら御呼びしますので」
「かたじけない。では少し休ませて戴こう」
客間に案内され、百鬼丸は一息つく。
歩き通しで疲れた足を、労ってやるつもりだったのだが、襖の向こうから気配が消えず落ち着かない。
百鬼丸は意を決して、お松に話しかける。
「如何なされた?」
「いえ、申し訳ございません。寿海どのに少しお聞きしたい事がございまして」
襖が少し開き、お松の声が聞こえる。
「どういった事にございますか?」
百鬼丸はお松に問う。
「不死とはそれほどまでに、素晴らしき事なのでしょうか? 私には解りません」
百鬼丸は、答えに詰まる。
いんちきとばかり思ってはいるが、仮に不死が存在したとして、善いか悪いかと聞かれたら解りはしない。
「さぁ? 解りかねますな。ただ人が求める事であるのだから、きっと素晴らしき物であるのでしょう」
「そう……ですか」
どこか落胆を秘めた、物言いであったが納得したのか諦めたのか襖は閉じられ気配は去っていった。
お松が去って、やっと本当に一息をつくと少し横になろうと、足を投げだした。
瞳を閉じ、考える。
(不死って……善い事なのか?)
少し考えて、鼻で笑う。
くだらない事だ。
死なぬ生き物など、化け物や化性の類いと変わらないのだから。
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