《二話》嵐の前の静けさ

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「アルバイトは?」  サークルにアルバイト。 大学生の醍醐味、なのか。  あたしは幸いなことに父のおかげでアルバイトをしないといけないという状況ではない。 だけどいつまでも父のすねをかじっているわけにはいかないのは理解している。  あたしは不器用だから、初めての大学生活に初めてのアルバイトやサークルなんて、一度にできないのが目に見えている。 それに家事も今まで通りにやらないといけない。 仕事で忙しい圭季と父に心配を掛けさせないようにあたしがしっかりしなくちゃ駄目なんだ。 「アルバイトもやりたいけど、あたし不器用だから大学生活に慣れたら始めようかなって」 「あー、アルバイトまでしない、というのかと思ってちょっとドキドキしちゃった」  朱里は母子家庭だ。 彼女もやっぱり家事やアルバイトをして家計を支えている。 それでいてあたしの世話もしてくれるし、朱里には頭が上がらない。 「わたしはサークルにアルバイトに家のこともやるよ!」  前向きで明るい朱里が眩しく思える。 「お母さんに無理をさせて大学に行かせてもらってるから、元を取ってそれ以上に楽しむのよっ!」  すごいわ、朱里さま。 あたしもそれくらいの気概を持って大学生活を送らないとね。  ……とりあえず明日は遅刻しないように学校にたどり着かなければ。 「明日は駅の改札のところで待ち合わせね」  手間のかかる子ですみません。
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