《二話》嵐の前の静けさ

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 朱里はサークル巡りをしてくるというので、カフェテラスの前で別れた。  あたしはせっかく早い時間に帰れるのだからと校門へと向かったのだけど、サークル勧誘につかまりまくり、とにかくどうにか断わって疲れきった。 テニスなどのスポーツ系、美術系に音楽系とたくさんのサークルが新入生確保に躍起になっているけど、あたしはどれも興味を持てなかった。 料理部かお菓子部なんてあったら、ちょっと考えるんだけどなぁ。 「あ! 朝の子!」  ようやく校門を出たところで後ろから声が聞こえた。 だけどあたしはそのまま歩き、駅へと向かう。 「ちょっと待ってよ!」  近寄ってくる気配を感じ、肩をつかまれた。 振り返ると、男の人。 自分でもわかる、涙ぐんでいることが。 だけど悲鳴を上げなかったことはほめてほしい。 それとも悲鳴を上げた方がよかったのかな? 「無事に到着したんだね、良かったよ」  あたしが涙ぐんでいることなんかおかまいなしに目の前の男の人は勝手になにかしゃべっている。 あたしはその手を振り払い、駅に向かって走った。 「なんで逃げるんだ!」  後ろからそんな声がしたけど、あたしの足は止まらなかった。
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