《二話》嵐の前の静けさ

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 朱里は今日はアルバイトの面接があるから先に帰ると言っていた。 一人で帰ることが心細く思っていたら。 「チョコちゃーん!」  校門前まで重い足取りでたどり着くと、聞き覚えのある声。 「圭季に言われて、お迎えに来たよ!」  そこには、楓那津(かえで なつ)が立っていた。 あたしと同じように帰ろうとしていた学生たちの視線が一気に那津に向く。  今日は私服で来ているから、シャツにズボンといったラフな格好だった。 それでも那津は目立つ。 それになんだかここ数ヶ月で急に身長が伸びたような気がする。 しかも会わなかった数日で妙な色気がにじみ出ていて、知らない人のように感じて躊躇した。 「那津……なんで?」 「なんでって、チョコちゃん、おっちょこちょいだから」  圭季に言われてと言ってなかった? 圭季まであたしのことを子ども扱いにしてるの? 「ほらほら、乗って!」  当たり前のようにあのリムジンが止まっていて、あたふたしているあたしなんかお構いなしで、無理矢理に乗せられた。 そういう強引なところがやっぱり那津で、先ほど感じた気持ちはすぐに吹き飛んだ。 「ちょっと、どういうことなのっ」  あたしはリムジンが動き出すと同時に那津に詰め寄った。 そりゃあ、一人で心細いとは思ったし、那津の顔を久しぶりに見てほっとしたのは確かだけどっ! 「圭季から聞いてないの?」 「なにをっ?」  思わず声がとげとげしくなる。 「チョコちゃんの入学祝いと圭季の入社祝いをするって話」  数日前、そんなことを言われたような……気が、しないでもない。 その後、圭季にキスをされたから……って、あああ、思い出しただけでも恥ずかしいっ! 「……チョコちゃん? なんでそこで真っ赤になってるの? やらしいなぁ」  やっ、やらしくなんてないわよっ! だって圭季ったら、あんな……いやああっ! ああ、もうっ! 圭季ってば、もう、ほんっとにっ! 「……チョコちゃん妄想劇場。 なにを考えているのかはなんとなくはわかるけど、それくらいの恥じらい、梨奈にもほしいな」  ため息交じりの那津の声に、ようやく現実に返ってくることができた。
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