《二話》嵐の前の静けさ

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「そういえば那津っ! 梨奈に告白したんだって?」  梨奈から那津に告白された、というメールを春休み中にもらった。 相思相愛だったんだと安堵したことを思い出した。 「したよ。 いけないのかよ」  すねたかのような那津の返答に、思わず聞いてしまう。 「那津から告白したの?」 「……そうだよ。 梨奈はずっとオレのことを好き好き言っていただろう?」  うん、それは知ってる。 切なそうに相談されたもん。 「チョコちゃんだから言うけど……梨奈には内緒にしておいてくれよ」  と那津はあたしから視線をはずし、 「一目ぼれ、だったんだよ」  ……わっつ? 一目ぼれ? 「父さんが再婚するの、反対だったんだ。 相手の女性……義母さんのことは知ってたんだけど、いまさら結婚するメリットなんてないだろう? オレももうこんなに育っていたわけだし」  梨奈からは再婚同士とは聞いていたけど、そういえば那津とこういう話をするのは初めてだ。 いろんな話をしたけど、あまり深い話はしなかった。 気にならなかったわけではないけど、プライバシーに関わりそうな事情は聞くに聞けなかった。 「梨奈からオレの母親の話は聞いてる?」 「ううん」 「そっか」  那津は少し躊躇しつつ、口を開いた。 「オレの母親は、オレと父さんを捨てて別の男と結婚したんだ」  リムジン内は急に静かになった。  梨奈のお母さんと那津のお父さんが再婚しているから那津にお母さんがいないのは分かっていたけど、理由を始めて知り、なんと返せばいいのか分からなかった。  那津はすごく気を遣う人だから、聞かされた相手がなんと反応すればいいのか分からないのを知っていて、この話題を避けていたんだろうな。 それ以前にあんまり言って回るような内容でもないってのもあるけど。 「しかもあいつは厚顔無恥で、未だに父さんと同じ会社で働いていたりするんだぜ? そんな女の血を半分継いでいるかと思ったら、恥ずかしくて仕方がない」  那津っていつもふざけてる姿しか知らないから、こんな気持ちを抱えていたなんて驚きだ。
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