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騒ぎを聞きつけた朱里が駆けつけてくれたおかげで、あたしは椿と名乗った男から逃れることが出来た。
「チョコ、落ち着いた?」
朱里は心配そうな表情であたしを見ている。
大丈夫だって笑みを浮かべようとしたけど、無理だった。
未だに心臓がどきどきいっている。
「真っ赤な薔薇の花束を抱えて待ち構えてるなんて、あいつ……ヘンタイ?」
朱里はあたしのためにカフェテラスの自動販売機でホットミルクココアを買ってきてくれた。
目の前に置かれた紙カップから立ち上る湯気をじっと見る。
「とりあえず飲もうか」
言われて視線を上げると、朱里はすでに半分ほど飲んでいた。
「……うん」
紙コップに手を伸ばし、手のひらで包み込む。
思っていたより冷めていたようで手のひらに返ってくるぬくもりはあまり温かくない。
口に運んで飲むと、もったりとした甘さが口の中に広がる。
買ってきてくれた朱里には申し訳ないけど美味しくはない。
だけど今のあたしはその変な生ぬるさに安堵を覚えた。
「椿って名乗ってた?」
「……うん、たぶん」
「ヘンタイ椿、か」
朱里なら真っ赤な薔薇の花束を持って現れた王子さまと言ってはしゃぎそうなのに、珍しくしかめっ面をしている。
「朱里なら逆に喜ぶかと思った」
「うーん……」
朱里は腕を組んで空っぽになった紙コップをなぜかにらみつけていた。
「確かにロマンチックなシチュエーションではあるけど」
やっぱりそう思っていたんだ。
朱里らしくってなんだかおかしくなってきた。
強ばっていた頬が緩むのを感じた。
「ようやく笑ってくれた」
朱里のほっとした声にまたもや心配をかけてしまったことを知って、気持ちがまた落ち込んだ。
朱里は組んでいた腕を外し、紙コップをつかんで握りつぶす。
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