《三話》赤い薔薇の花束

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「チョコ、今、幸せ?」  突然の質問に、紙コップに口をつけたところで止まった。 「立花先生……圭季さんとつきあうことになったって聞いた時、わたし、すっごくうれしかったの」  あたしはココアを一気に飲み干して朱里に向き合う。 「チョコって男の人が苦手じゃない? だからきちんと彼氏ができるのかなってすっごく心配してた。 チョコから報告を受けたとき、相手があの立花先生だと聞いて驚いたけど、なんだか妙に納得したし、チョコにも彼氏ができたんだって自分のことのように嬉しかったんだ」  朱里に彼氏が出来たと報告したとき、予想通り驚かれた。 しかも相手が「あの」立花センセだと明かしたら、椅子から転げ落ちた。 この様子では反対されるなあと思ったけど、朱里はぶつけた腰をさすりながら、やっぱりと笑ってくれた。 その後に幸せになってねと言われて、あたしはうれしくてちょっと泣いた。 「……最近のチョコを見てると、なんだか辛そう」  朱里にそう言われて、あたしの心臓はどきんとはねた。  さすが幼なじみ。 朱里はあたしのことがよく分かっている。 「もしかして、圭季さんとけんかでもした?」  朱里の質問にあたしはゆっくりと首を振った。 「ここのところずっと、圭季と会えてない」 「……会えてない?」  首を縦に振る。 それを見て朱里はものすごく渋い表情になった。 「一緒に住んでいるのに?」 「うっ、うん……」  圭季が去年の一年間、学校の先生として高校に潜入してくれたことをありがたく感じてしまう。 そうでもしてくれなければ、あたしは圭季のことを知ることができなくて、たぶん一番身近であたしを守ってくれていた那津に惹かれていたと思う。  そうなったら梨奈と那津を取り合うことになって、辛くて悲しい思いをしなくちゃいけなくなっていたんだろうな。 そんな可能性がふと脳裏によぎり、あたしは強く頭を振る。 梨奈と那津を取り合うなんてあり得ない。 もし仮にそうなったとしたらあたしは潔く引いていたと思う。  那津はあたしのことはただのお友だちと思っているだろうし、あたしもそうだ。
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