《五十話》二人での外食

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 そして、三年生になった春休み。  アルバイトがない日に圭季に誘われて、外食をすることになった。  そういえば外食なんて、あの事件以来かも。 しかも圭季と二人でとなると、もしかしなくても水族館デート以来? 退院したら水族館に行こうっていう話も薫子さんのせいでお流れになた。 だから二人っきりの外出ってのはものすごく久しぶり。  そんなことを考えたら、ものすごく緊張するっ!  綾子さんに選んでもらったドレスを着て、なぜか美容師さんが出張してきて髪とメイクもしてもらった。  圭季は先に行っているからと、あたしはどこに行くのか聞かされないままリムジンに乗るようにと言われた。  どこに行くのだろうかという不安のままでいたけれど、たどり着いたのはホテルの正面玄関。 外からドアが開けられて戸惑っていると、スーツ姿の圭季が車内に上半身を入れてきた。  圭季のスーツ姿を初めて見るわけではないのに思わず見惚れてしまった。  ぼんやりとしていると圭季は動かないあたしに疑問に思ったようだ。 「チョコ?」  そこで圭季の手が差し出されていることに気がついた。 「……え、うん」  シートに置いていたバックを手に取りつつ圭季の手のひらの上に手を置くと、ぎゅっと強く握られた。  促されるままにリムジンから降りた。  圭季に腰を抱き寄せられ、歩きにくい思いをしながら歩みを進める。 慣れないパンプスで圭季の足を踏まないようにしなきゃ。  ガラス張りのロビーは外の光を取り入れ、とても明るくて暖かい。 だけどどうしてだろう。 ぞくりと悪寒がこみ上げてきた。  そして進行方向へと視線を向けると……。 「!」  すっかり様変わりしていたけどすぐに分かった。 化粧っ気がまったくないし、やつれたようではあったけど妙な色気が加わった薫子さんがなぜかそこにいた。  あたしの足は反射的に止まる。  まず身体が拒否反応を示し、次に遅れて心が反応を示した。  ……怖い!  今すぐ回れ右をしてリムジンに乗り込んで橘家に帰りたい。  そう思うけれど、恐怖に身体が凍り付いて動けない。  薫子さんに気を奪われていて、隣で圭季があたしを支えてくれているのを忘れていたけど声を聞いて思い出した。
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