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圭季はあたしのために上層階にあるレストランに予約を入れておいてくれた。
景色はよいし、料理も美味しいし、圭季の機嫌があまり良くなかったのは残念だけど、とても楽しかった。
デザートを食べてほっとしたところで、激しい感情がむくむくとこみ上げてきた。
それは薫子さんに対しての激しい怒りだった。
本当ならば、あたしは当たり前のように圭季とデートをしたり、こうして一緒に外食したりといったことが出来ていたはずなのだ。
それなのにその当たり前のことが彼女のせいで制限されている。
あたしはテーブルの下でぐっと拳を握りしめた。
この怒りの矛先をどこに向ければいいのか。
こんなに怒りを覚えたのは初めてかもしれない。
怒りに震えていたら、ぽんっと軽く頭に手が置かれた。
視線を上げると圭季と目があった。
「チョコ、悪かった」
薫子さんへの怒りに捕らわれていたあたしは、圭季の謝罪に即座に反応できなかった。
なんで謝られているのか分からなかったのだ。
あたしからの反応がないことに圭季は言葉を重ねた。
「チョコが今日を楽しみにしてくれていたことは知っていた。
妨害が入らないように警戒していたのに……申し訳ない」
そう言って頭を下げてきたことであたしはようやく状況を理解した。
圭季は今日のことであたしが怒っていると思ったらしい。
今日のことも怒っているけれど、それだけではなく、これまでの薫子さんの行為に対して怒りを覚えていた。
このまま圭季の謝罪を受け入れたら、この嫌な空気は終わりを告げる。
今までのあたしだったら、誤解されているのが分かっていてももやもやする心のまま「いいよ」と謝罪を受け入れていたと思う。
だけどそれだとなにも変わらない。
変わらなかったからあたしは何年もの間、不自由を強いられてきたのだ。
もっと圭季といろいろ楽しみたい。
自由に気の向くままにデートしたい。
その願いを叶えるのは今しかない。
だからあたしは勢いのまま口を開いた。
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