《五十一話》箱詰めのチョコレート

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 ……なんて思うのは贅沢な望み?  圭季からしてもらえないのなら、あたしから歩み寄って抱きついてもいいかな?  ずっと受け身でいても現状は変わらない。 あたしは充分に待ったと思う。 変わらないのなら、変えなくてはならない。 そして変えるのなら、自らが動かないと駄目だ。  と、意外に冷静に頭の片隅で考えている自分に驚いた。 思っているよりもしたたかになっているのかもしれない。 「チョコ」  そんな不純な思考を断ち切るような真剣な圭季の声。  圭季にあたしが考えていたことなんて知られることはないはずなのに、恥ずかしくて頬に熱が宿った。 頬を押さえて誤魔化そうかと手を上げようとしたところ、視界が暗くなった。  えっ、なにっ?  戸惑ったけど、すぐに腕ごと拘束……もとい、抱擁されていることに気がついた。  あたしは今、圭季に力一杯、抱きしめられている。 「謝って済む問題ではないのだろうけど……」  あたしは今、くらくらするほど圭季の匂いと熱を感じていた。 いつもより圭季を熱く感じるのは、あたしの体温が低くなっていたからなのか、それとも圭季が熱いのか。  もぞもぞと身体を動かすと、少しだけ腕の力を緩めてくれたのでそっと圭季の腰に腕を回した。 「……結局、おれはなにも変わっていなかったってことか」  自嘲気味な声に、あたしはそっと視線を上げた。 「那津と梨奈にあんなに怒られたのに、おれは結局、チョコを小さなかごの中から少しだけ大きなかごに移しただけだったんだな」  小さなかごから少し大きなかごって……要するにマトリョーシカ状態ってこと?  言われてみればそうかもしれない。  薫子さんから受けた仕打ちにあたしは恐怖して、圭季の作ったかごというか檻というか……チョコだから箱詰め?  その中であたしは圭季に飼われていた……。  かごの中の鳥ならぬ、箱の中のチョコってなんだかとっても美味しそうだけど。  殻を破るってより、箱から飛び出す気分。  あたしは箱の中から飛び出すことにしたけれど、そもそもどーして箱に閉じこめられていたんだっけ?  闇雲に飛び出しても、根元にある問題は解決していないのだ。
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