《五十二話》対決

3/5
前へ
/297ページ
次へ
 そんな意気込みで迎えた本日。  ホテルの会議室を借りて、あたしは薫子さんと対決することになった。  部屋の中にはずらりと警備の人。  大げさすぎるからと拒否したんだけど、圭季がそこだけは譲らない、受け入れなければあたしの提案は却下すると言ってきたので渋々受け入れた。  実際に見て思う。  やはりこれはやりすぎではないか、と。  だけど薫子さんがなにをしてくるのかまったく読めないから、仕方がないのかなあ。  なにごとも起こりませんように。  そんなことを祈りながら、時間の五分前に圭季とともに部屋へと入った。  圭季はいつも通りのスーツ。 あたしは動きやすいようにパンツスーツ。  乱闘になったとき、髪を掴まれる危険性を考えてアップにした。 帽子かターバンをするという提案をされたけど、パンツスーツにそれっておかしいから断った。  ちなみに、そんな妙な案を出してきたのは那津だ。 あれは絶対、あたしで遊んでいた!  あたしたちの前には長机が置かれていて、一応これがバリケード代わり。 プラスチックの透明な板を立てるという話も出たけど、なんだか拘置所にいる気持ちになるから止めてもらった。  あたしと圭季は並んで座り、時間が来るのをじっと待った。  腕時計にじっと視線を落とし、秒針を追う。  じりじりとした空気が場を支配していた。  秒針が数回周り、予定の時間になった。  だけど薫子さんが現れる様子はない。  話し合いの席に着かないかもしれないと思っていたし、正直なところ会いたくなかったから来ないことに内心ではホッとしていた。  向こうには話し合いのテーブルにつかないということは、今までこちらから提示したことをすべて承諾したものとしますと伝えてある。  こちらから提示した内容ってのはかなり無理難題な部分もあるような気がしたけど、そうでもしなければ確かにあたしは今までの暮らしは取り戻せない。  薫子さん側には連絡もなく五分過ぎたら条件すべてをのんだものとすると伝えてある。  どこまでいってもこちら側が有利になるようになっていた。  そしてその五分も過ぎてしまった。  隣に座っていた圭季から安堵した空気を感じたけれど、あたしは気が抜けなかった。
/297ページ

最初のコメントを投稿しよう!

131人が本棚に入れています
本棚に追加