《五十二話》対決

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 あまりにもこちらが有利で話し合いにもならない条件。 こんなことでいいのかななんて思ってしまう。  出した条件というのは、桜家と椿家は今後一切、橘家に関わらないこと。  他にもそこまで指定してもいいの? という驚きの内容だった。  薫子さんに関しては、あたしたちの住む区域に入らないようにとも書かれていた。 さらにあたしたちに害をなすような指示も出してはいけないと。  そういったことに詳しくないからなんとも言えないけど、制限できるものなのかなあ?  疑問に思ったけど、もうあんな目に遭いたくないし、自分で会って話し合いをしたいと言ったけど、本心では薫子さんにも会いたくないからそれはありがたかった。  あたしたちは撤収作業をして部屋を出た。  なんとなく消化不良気味の結末だったけど、これでいいのよ。  と思っていたら、エレベーターホールのあたりがざわめいていた。  何事かと思っていたら、あたしと圭季は警備の人たちに囲まれ緊迫した空気になった。  しかしそれを打ち破る声が聞こえてきた。 「桜薫子は、橘薫子になります!」  場にそぐわない明るい声ととんでもない言葉にあたしは圭季に視線を向けた。  橘って、たちばな、だよね?  圭季の苗字だけど……? 「圭季、見て見てっ! あなたのためにオーダーメイドしたのよ、このウエディングドレス!」  廊下の角を曲がり、真っ白な固まりが転がり出てきた。 「圭季、あなたの薫子、まいりましたわよ?!」  薫子さんのその言葉にあたしは唖然とした。  あたしと圭季の外食を邪魔しに現れたとき、謝りたいって言っていたのはなんだったのだろう。  それとも、薫子さんにとっては、あれは謝罪だったの?  久しぶりの、しかも数年ぶりの! ふたりきりの外食を危うく邪魔されるところだったのよ?  怒りがこみ上げてきた。  薫子さんの周りにはだれもいない。  一人で自由に思うがまま。  それに比べて、あたしはたくさんの人に囲まれて不自由を強いられている。  理不尽じゃない?  こんなのおかしいよ!  あたしの身体は怒りに震えていたけれど、頭は冷静だった。 ……と思う。
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