《五十四話》離ればなれに……?

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 とそこで気がついたことがある。  あたしが橘家にいるのは薫子さんがなにをしてくるか分からなくて危険だからという理由だったような気がする。 花嫁修業をすればいいと言われたけど、それは口実というか、ついでというか、おまけみたいなもの。 当初は花嫁修業かあ、なんて思っていたけど、思い返してみたら大してやっていない。 アルバイトとお菓子作りに明け暮れていたような気がする。  となると、あたしがここにいる理由がなくなってしまう。  圭季と気軽に自由にデートは出来なかったけど耐えることが出来たのは、一つ屋根の下に住んでいたから。 一緒にお菓子を作ったり、圭季がお菓子を食べられるように訓練したりしていた。  驚異が取り除かれたのなら、元の家に戻らなければならない。 それもあって父が迎えに来たのかも。  父を一人にしているのは気になっていたからマンションに戻るのはいいけど、圭季と会いにくくなるのが嫌だなあ。  そんなとりとめのないことを考えていたら悲しくなくってきた。  本来ならあたしはここにいないはずだった。  そうなんだけど、今のあたしにはこの状況が日常だった。 それがなくなって前の日常に戻るだけ。  だけど。  圭季と離れて暮らすのは嫌だ。  どうにかして離れ離れになるのを避けなければ。  圭季と離れたくないからこのままここにいさせてくださいってお願いすればいいのかなあ?  でもなあ、なんだかそれってずうずうしいような気がする。  他になにか方法がないかな。 「チョコ」  そんなことを考えていたら、名前を呼ばれた。 顔を上げると真剣な表情の圭季が目の前にいた。 真剣というよりは強ばっている? ……もしかして圭季、緊張してる?  どうして圭季が緊張しているのか分からず首を傾げた。  いつもならあたしのそのしぐさに対してアクションが返ってくるのに、珍しく動きがない。  しばらく待ったけど、圭季はなかなか動かない。 だから口を開こうとしたら、ようやく圭季が動いた。  ごそごそとジャケットのポケットに手を入れてなにかを探していた。  そういえば、そんな動きを何度か見ているけどあれはなんだったのだろう。
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