《五十五話》あたしはとっても幸せです!

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 あたしは圭季の瞳を見つめ、返事をした。 「はいっ、喜んで」  あたしの答えに圭季はぎゅっと指先を握りしめたかと思ったら、手を離してあたしの指になにかをはめた。  って、これって。  ゆっ、指輪ですかっ?  圭季から何度かアクセサリーをもらったことはあったけど指輪は初めてだ。  もしかして指輪を避けていたのはこの時のため?  はめられた指輪をじっと見る。  シンプルだけど上品な作り。 たぶんだけど、前にもらったアクセサリーと同じブランドだと思う。  一つだけ難を上げれば、少しだけ指輪が大きいことだ。 だけどこれは調整してもらえばいいからそこまで大きな問題ではない。  だけど……。  婚約指輪は給料の三ヶ月分と言われてるけど、指輪にお金なんてかけてほしくないんだけどっ!  せっかくのムードをぶち壊すように指輪を突き返すような野暮なことはしないけど、どーすればいいんだろう。 このまま素直に受け取ってもいいのかな?  なんと言おうかと悩んでいたら、真横から圭季の声がした。 なっ、なんでそんなに近くにいるのですかぁ! 「……気に入らなかった?」 「そっ、そういうわけではないんだけどっ! た、高かったでしょうっ?」  うわああ、直球勝負で聞いてしまった! 動揺して本音が洩れてしまったというか。  あたしの問いに圭季は苦笑を浮かべた。 「あらあら、チョコちゃんはしっかりしてるわね。 結婚したら家計の管理をしっかりしないといけないものね?」  いつの間にか綾子さんがやってきて、あたしのフォローっていっていいのか不明だけどしてくれた。 「昔から婚約指輪は給料の三ヶ月分って言うものね。 圭季ったらそれを真に受けて買おうとしたから、わたくしが止めたのよ。 チョコちゃん、そういうのすごく気にするから」  さすがは綾子さん。 「でもあんまり安っぽいのは圭季も恥ずかしいから、それなりにしっかりしたものにしたのよ」  ああ、そうか。  あたしが恥をかくんじゃなくて圭季が恥ずかしいのか。  そんなことを考えたことがなかったから綾子さんの言葉はタメになった。
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