《一話》大学生になりました!

4/9
130人が本棚に入れています
本棚に追加
/297ページ
 唇と唇が触れあう寸前、階下からのインターホンが鳴り響く。  あたしはあわてて目を開けると、圭季は残念そうな表情をしてあたしから離れていった。 「ごめん、迎えが来たみたいだ。 チョコ、入学式に行けなくて、ごめんね」 「ううん、いいのよ。 もうあたしも子どもじゃないし」  本当は来てほしいけど、圭季はあたしとの未来をきちんと考えて、会社を継ぐことにしたみたいだから、そのあたしがわがままを言ったら駄目なのよ。 我慢しないとね。 「行ってらっしゃい」 「……なんか、新婚さんみたいでいいな」  と言いながら、圭季はかばんを持つと、あわただしく家を出て行った。  しっ、新婚さんってっ! もう、なんてことを言ってるの!  真っ赤になっているであろう頬を押さえ、時計を見ると。 「うわっ! あたしも遅刻しちゃう!」  初日から遅刻なんて、ダサすぎるっ!  あわてて荷物を持つと、家を飛び出した。  今日から始まる新しい暮らしに、あたしの心は不安と希望で胸がいっぱいだった。
/297ページ

最初のコメントを投稿しよう!