130人が本棚に入れています
本棚に追加
/297ページ
唇と唇が触れあう寸前、階下からのインターホンが鳴り響く。
あたしはあわてて目を開けると、圭季は残念そうな表情をしてあたしから離れていった。
「ごめん、迎えが来たみたいだ。
チョコ、入学式に行けなくて、ごめんね」
「ううん、いいのよ。
もうあたしも子どもじゃないし」
本当は来てほしいけど、圭季はあたしとの未来をきちんと考えて、会社を継ぐことにしたみたいだから、そのあたしがわがままを言ったら駄目なのよ。
我慢しないとね。
「行ってらっしゃい」
「……なんか、新婚さんみたいでいいな」
と言いながら、圭季はかばんを持つと、あわただしく家を出て行った。
しっ、新婚さんってっ! もう、なんてことを言ってるの!
真っ赤になっているであろう頬を押さえ、時計を見ると。
「うわっ! あたしも遅刻しちゃう!」
初日から遅刻なんて、ダサすぎるっ!
あわてて荷物を持つと、家を飛び出した。
今日から始まる新しい暮らしに、あたしの心は不安と希望で胸がいっぱいだった。
最初のコメントを投稿しよう!