《一話》大学生になりました!

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 そんなことを考えているうちに入学式は終わったようで、講堂が騒がしくなってきた。 「チョコ!」  出入口で朱里を探していたら、向こうが見つけてくれた。 見知った顔を見たら、涙が少し出た。 「やっぱり駅で待ち合わせした方がよかったかぁ」  朱里のその言葉に慌てて首を振った。 一人で行くと強がったのはあたしなのだ。 だけどその結果、朱里に心配をかけさせた挙げ句、初日からやらかしてしまった。 「あの……心配掛けて、ごめんね」 「気にしないのっ! 圭季さんも今日から仕事なんだっけ?」 「うん、そう」  朱里はため息をつき、あたしを見た。 「もう、そんな顔をしないのっ。 とにかく栄養学部の教室まで連れて行ってあげるから、きちんと話を聞いて、もれなく授業を取るのよ! わたしも確認してあげるけど、なんなら圭季さんにも見てもらって」  あたしってそんなに頼りない? 大学生にもなってもおっちょこちょいで抜けてるなんて、どうすればいいんだろう。 「はいはい、もうここで落ち込まないの! あのね、わたしが心配性なのは知ってるでしょ? せっかくの大学生活なのに、そーんーなーかーおーしーなーいーのー!」  と言いながら、朱里はあたしの頬を引っ張った。 痛いって! 「ほらほら、行くわよ! 栄養学部、今年も豊作って聞いたから! いい男がいたら紹介してねっ!」 「朱里……」 「ああ、わたしの王子さま、どこかに落ちてないかしらっ! チョコを送り届けるという振りをして、いい男を観察しにいく! うん、われながら素晴らしいわ! しかも友だちの心配までできる気配り上手な女としてこれ以上のアピール方法があるだろうか、いや、ない」  反語まで使って朱里はそんなことを言っている。 それは本気なのかあたしに気を使ってなのか。 それがどちらであれ、朱里らしい発言にあたしはようやく笑うことができた。
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