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「睦貴のお仕事の手伝いがしたくて獣医になろうと思ったんだけど……」
文緒が獣医?
絶望的不器用な奴が獣医とか、勘弁してくれ。
「私、不器用だから……」
自覚はあるらしい。
ほっとした。
「だったらもうちょっと融通が利く秘書課かなぁ」
秘書の仕事ってそれはそれはもう、縁の下の力持ちどころの話ではない。
深町さん、よくもまああんな大変な仕事をやっていたな、と兄貴の秘書をやっていて思う。
蓮さんに言わせれば兄貴が型破りすぎるから大変なだけだ、というけど。
俺は他の人の秘書なんてしたことがないからあれが「普通」と思っている。
ようやく兄貴の「秘書」という仕事に慣れてきて、あとは兄貴の扱いにも慣れてきて少し余裕が出てきているのは確かだけど。
深町さんには
『Mなあなたには秋孝の秘書はぴったりですよ』
と言われた。
だけど俺、なんだか兄貴の秘書になったことで別の扉を開ける境地に立ってしまったよ。
このままいけば俺、Sにもなれそうだ。
意外にわがままな兄貴の言われるがままに仕事をやっていたらとんでもないことになる、と気がついたので、ある程度俺が兄貴をコントロールしなくてはならない、ということが分かってきた。
兄貴を御しながら周りも納得させなくてはならないし、かなり神経がすり減るんだよな。
そんな仕事を文緒にさせるのかぁ。
俺は思わず遠い目をして文緒を見てしまった。
「睦貴?」
「ん? 秘書の仕事、大変だよ?」
「アキさん相手だからでしょ?」
蓮さんは家で愚痴でも言ってるんだろうか?
「睦貴を見てたらなんとなくアキさんが分かるから」
ということは……俺を相手にするのも大変、ということか?
俺……そんなにわがままか?
「俺、わがまま?」
「わがままではないけど、なんていうかなぁ」
文緒は上を向いて言葉を選んでいるようだ。
いや、思ったことを正直に言ってくれて全然いいんだけど。
「たまに突拍子もないことしてくれるから、フォローに困る」
言われて、悩む。
……突拍子もないこと?
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