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俺はショックに打ちひしがれてそのまま立ち去ろうとしたその時。軽やかな着信メロディが車の中に鳴り響いた。……文緒からの着信だった。気がつかれたか。俺は仕方がなく電話に出る。
『どうしたの、睦貴?』
俺の視界百メートル先に見える文緒と思われる人はやっぱり携帯電話を持っていた。ああ、見間違えならいいのに、と思っていたけど本人のようだ。
「さっきいきなり帰れと兄貴に言われた」
文緒は携帯電話を耳から離して俺に向かって手を振っている。男連れで登場ですか、俺の彼女さま。
「睦貴が来てるとは思わなかった」
文緒は悪びれる様子もなくにこにこと俺に近づいてくる、もちろん、隣にはしっかり男を連れて。俺は文緒の横に立つ男に敵意をこめた視線を送ったのだが。
……あれ?
なんだか違和感を覚えた。
着ている制服は男物だけど、中身はどう見てもボーイッシュな女の子、のように見える。
「ノリちゃんのこと、気にしてる?」
俺の視線に気がつき、文緒が突っ込みを入れてくる。
「ノリちゃん、女の子だから」
そうか。
俺はあからさまにほっとした表情をしていたようで、文緒とそのノリちゃんに笑われた。笑いたければ笑うがいい!
「送ろうか?」
ノリちゃんは首を振って、
「アタシの家、すぐそこなので」
少し先の高層マンションを指さした。あそこに住んでいるのか。
文緒は当たり前のように助手席のドアを開けて乗り込んだ。
「ノリちゃん、また明日ね」
「うん、バイバイ」
ノリちゃんはにこにこと手を振って俺たちを見送ってくれた。
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