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俺は今、深町さんの就任式に来ている。
兄貴に連れられて、あちこちに挨拶をさせられている。
こういう場になれないのと、着なれないタキシードに頭が痛くなってきた。
たまにねっとりとからみつくような視線を送ってくる妙齢のご婦人をひきつる笑顔でかわしつつ、どうにか俺は役目を終えた。
「文緒と結婚してもきっとああいう攻撃は続くから覚悟しておけよ」
と言われても、もう勘弁してください、お兄さま。
「まあ、おまえがどう思っているのかは知らないが、高屋という名前とおまえの見た目も考慮して、女が群がってくるのは仕方がない」
見た目も考慮、とはそれは褒めてる? けなされてる?
どちらか判断がつかずに俺は聞いた。
「一応前者だ」
あれ?
「昨日、文緒に『かっこいい』と言われたんだけど、世間一般的に俺はどうなの?」
なんかこんな場で兄貴に馬鹿な質問をしている俺、相当かっこ悪いと思いつつも思わず聞いていた。
「文緒の言うことを信じろ。昨日もおまえ、女に声をかけられたんだろう?」
……見られてるし。
「もう少し自分の見た目に自信を持て。俺はブ男は連れて歩かないからな」
ブ男なんて言葉、久しぶりに聞いた!
……だけど、素直に喜べない自分がいる。
明らかに俺の周りの人間の見た目のレベル、高すぎだろう。
兄貴だって黙っていれば彫刻のように彫が深いいい男だ。
智鶴さんはモデルをしているくらいだからものすごい美貌の持ち主で、ふたりが並んでいるといつも俺、場違いな気持ちになってくる。
息子の柊哉は両方のいいとこどりで、やっぱりなんで文緒が俺を選んだのかさっぱり分からない。
ダメンズな俺は文緒の母性本能をくすぐったのか?
「帰るぞ」
兄貴はいきなりそう言って俺の腕を引っ張る。
俺は仕方なしに従った。
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