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それから特に変わったこともなく、日々は過ぎて行った。
ようやく文緒は期末試験を迎え、最終日、兄貴がいきなり文緒を迎えに行け、と言ってきた。
「いや俺、仕事中だぜ」
「いいから行け」
なんだかよくわからないけど、俺は文緒の学校に向かった。
学校に着くと、すでに帰宅を始めた学生がちらちらと見えた。
文緒はまだ帰ってないよな?
携帯電話を取り出し、メールを打とうとしたらトントン、と窓をたたかれた。
俺は驚いて顔をあげ、窓の外を見た。
いつか見た、ノリちゃんが少し困った表情で俺を見ていた。
俺は窓を開けた。
「こんにちは、ノリちゃん」
向こうは明らかにほっとした表情になった。
ノリちゃんは自分のことを覚えてないかも、と思っていたのかもしれない。
「文緒なら今日は日直だからもう少ししないと出てこないですよ」
「あ、そうなんだ。ありがとう」
今日の朝もやっぱり顔を合わせられなかったから、そういう情報をもらえるのはありがたい。
それでも一応、メールはしておこう。
それより、文緒はノリちゃんに俺のことをなんて言ってるんだろう?
明らかにこんなおっさん、本気で彼氏と思ってるのかな。
「気をつけて帰れよ」
……このセリフもなんかおっさんだ。
ノリちゃんは少し照れたような笑みを浮かべ、小さく会釈をして去って行った。
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