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屋上に出て、俺は驚いた。
そこには、明らかに堅気ではなさそうな方々に囲まれた文緒がいたからだ。
えーっと、もしもし?
なにこれ。
文緒は瞳いっぱいに涙をためて、それでもうつむかずに顔をあげてひとりの女を睨みつけていた。
「この人たちは……お友だち?」
なわけないよな、どう見ても。
「あーら、王子さまのご登場?」
今まで俺に背中を向けていた文緒がにらんでいる女がこちらを向いた。
えーっと、どこかで見た顔なんだけど……?
「睦貴さん、ごきげんよう」
ねばっこくまとわりつくような声と視線に俺はようやく思い出す。
深町さんのパーティで見た顔だ。
あの時の衣装と化粧とはまったく違っていて分からなかった。
しかし、名前が思い出せない。
俺、秘書として失格かも。
「どちらさまでしたか?」
こういう場面で相手を怒らせてはいけない、というのが分からないわけではなかったのだが、ついつい素でボケてしまった。
ここのところこういう危ない場面がなかったから、平和ボケしていたらしい、俺の頭。
昔は『高屋』ということでいろいろとこういう危ない場面には何度も遭遇していたのだが、そういえば真理と対立が深くなってからはなくなっていたな、とふとそんなことを思い出した。
もしかして、真理がこういう輩を排除してくれて、いた?
──なんてことを考えて、俺はその考えを否定した。
まさか、な。
「今日はあなたの大切なものにあいさつよ」
女は嫌な笑みを浮かべ、文緒を見た。
「あなたがこんな小娘が好きだなんて──結構な趣味ですこと」
待て。
何度も言うが、俺は決して「ロリコン」ではない!
文緒だから、なんだ!
「特定の人を作らなかったあなたが固執するくらいだからどんな子か期待してたのに……残念だわ」
なにがどう『残念』なのか五十文字以上二百文字以内で教えてほしい。
……なんてことを言ったらどうなるのかな。
最近、文緒のそういう問題ばかり一緒になって解いていたからついそんなことを考えてしまった。
しかし、こういう場面でも馬鹿なことしか考えられない俺の方が人として『残念』だと思うのだが、間違っているか?
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