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「すぐに根を上げるかと思っていたのに、意外に打たれ強いな」
褒められている、と思っておこう。
そう思わないと、今日の俺にはかなりきつい。
「もう、蓮もそろそろやめてあげなよ」
奈津美さんがトレイに紅茶を乗せて笑いながらやってきた。
今は土曜日の朝。
いつものように朝ごはんを食べた後、文緒とセットで蓮さんに説教をされていたのだ。
「まあ、そういう時期があっても不思議じゃないでしょ。なんたって文緒はずっと睦貴のことを想っていたわけなんだから」
今日の紅茶はウバティらしい。
ミルクと砂糖がテーブルの真ん中に置かれている。
「たまには寄り道しないと。人生、長いんだから」
奈津美さんの言葉に蓮さんはムッと顔をしかめている。
寄り道しかしていなかった俺は……どうすればいいのでしょうか。
「やっぱり睦貴は文緒の教育上、よくないな」
ええ、そうでしょうとも!
常に母親には反抗期。
ああ、いまだにな!
「もう、諦めなさいよ。睦貴が文緒を取り上げた時に決まっていたようなもんでしょ」
「奈津美が陣痛を我慢しすぎていたのが一番いけないんだろう」
十六年も前の話を蒸し返すなよ、と突っ込みを入れたいが、藪蛇なのは目に見えているので黙っている。
「がまんはしてないわよ。だって、そんなに痛くなかったし」
蓮さんと奈津美さんは十六年前のことでなにやら言い合いをしている。
もう過去のことを今いくら言っても仕方がないのに。
俺は奈津美さんが淹れてくれた美味しい紅茶を飲み、文緒を連れて自分の部屋に退避した。
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