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勉強の合間の気分転換に俺と文緒は今、本来は兄貴と智鶴さんしか入れない庭に来ていた。
なんで入れるかって?
兄貴夫婦と佳山家はまったくの赤の他人であるけど、兄貴の持つその「特殊能力」を知りながら態度を変えなかった奈津美さんと蓮さんのことを大切に思い「家族」の一員として、兄貴がこの庭をふたりのために解放した。
本来なら俺は入ってはいけないんだけど……。
兄貴は口ではあんなひどいことを言っているけど、俺のこともきちんと「家族」として認めてはくれているらしい。
入ったことに対して言われたことはない。
特にこの庭になにか秘密があるとかではないんだけど、一応家族のプライベートガーデンという位置づけであるからむやみやたらと人が入るのは好まない、だけの話らしいんだけどね。
外でするな、というのは……これ以上は言わないぞ、察しろ。
あああ、なんかそのことを思い出したらむらむらしてきた!
蛇の生殺し、とはこのことを言うんだな。
来てすぐなのに俺が部屋に戻ろうとしたのを見て、文緒はあわてる。
「もう帰るの?」
むらむらしてきたから帰る、とはさすがに言えなくて、引きとめられて俺は部屋に戻るのは諦めた。
三十すぎたおっさんのクセに、なんで下半身は中高生並みの反応しかできないんだ。
びしばし叩いてやりたい。
……いや、やめておこう。
余計に反応してしまう。
「ねぇ、むっちゃん」
文緒はそう言ってあ、と口に手を当てた。
無意識に口をついて出たらしい。
だけど今は謹慎期間でペナルティのキスさえも禁止。
ちらり、と文緒は俺を見ている。
「謹慎期間中はペナルティも謹慎中です」
我ながら意味の分からない日本語だと思いながらも文緒に告げる。
つまらなそうな顔をしていたけど、その顔もかわいい。
ああ、食べちゃいたい。
……おっさん思考で嫌になる。
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