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結局、彼女の名前も顔も思い出せなかった。
出会ったきっかけだけは思い出した。
母が押しつけてきた見合いだったような気がする。
『初めまして。……わたしたち、どこか似ているような気がします。なんだか、上手くいきそうですよね』
初対面でそんなことを言われ、眉をひそめた覚えがある。
今、会ったばかりなのに似ているだとか上手くいくとか、なんだか新手の詐欺師のようだと思ったものだ。
上手くいかないと思っていた。
彼女は今までの女性とは違って変に媚びてこなかったし、自然体だった。
すごく楽だった。
俺も変に構えなくて済んだから、素の自分を結構、さらけ出していたような気がする。
彼女の前でどんなに繕っても、すぐにばれてしまっていた。
高屋ではなく、きちんと睦貴を見てくれている。
徐々に俺は彼女を信頼して──段々と依存していったような気がする。
ああ、彼女は俺を見てくれていたのに、俺は確かに彼女を見ていなかった。
俺を開放してくれる存在としてしか、見ていなかった。
彼女はそれが辛くて、負担になって、別れを告げたのか。
ようやく、自分が振られた理由が分かった。
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