序章

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─七月中旬─ 梅雨が開け、よく晴れた日曜日の昼。 新宿の某デパートの屋上では、カップルや親子連れが楽しそうに休日を満喫している。 その屋上の南側の転落防止用の柵の前、柵の手前に一定の間隔に並べて植えられた木々のおかげでちょうど人から見えにくい位置に、赤いポロシャツを着た女性は立っていた。 二十代後半くらいだろうか、ミニスカートを履いており、柵の方を向いて、腕はダランと脱力し、長く綺麗な黒髪が風に揺れている。 おもむろにハイヒールを脱ぐ。 僕はそれを後ろから観ている。 靴を丁寧に揃えて柵に両手を掛け、そこで女性の動きが止まった。 一分…… 二分…… はしゃいでいる子供の声や風に揺れる女性の黒髪が、時折、時は止まっていない事を僕に告げた。 そうして五分程経ったかと思ったその時、女性が突然、掛けていた両腕に力を込めて柵をよじ登った。
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