序章

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後は……本当にあっという間。 僕が女性の行動に何か思うよりも早く。 そして間抜けなくらいに呆気なく。 その体は柵の向こうに消えていった。 一拍置いて悲鳴や叫び声が聞こえてきた。デパートの外が急に騒がしくなる。 僕は少しの間、そのまま柵の向こうの虚空を眺めていたが、それから女性のハイヒールに視線を移した。 しばらくして、屋上の客や店員も騒ぎに気付いたらしく、何やらドタバタとし始めるのが分かった。 救急車やらパトカーやらのサイレン、 飛び交う悲鳴と叫び、 ざわめきと無数の靴音、 それらの喧騒をまるでBGMみたいだと思いながら。 僕はただ、丁寧に揃えられたハイヒールをずっと見ていた。
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