第二章 突然の模擬戦

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「ええ、国からの支援を受けて勉学に励む一方、唯一の肉親である妹を養うために夜遅くまで働く。その生活を繰り替えす、そんな生徒だよ」 カレンの言いようからは、彼に対する同情が伺えた。 遅刻に対してあまり怒りを表さなかったルードにしても、彼の苦労を思い、少し寛大に接しているのかもしれない。 「国の支援を受けれるほどの人物……と、なると優秀な方なのでは?」 「うん。ガゼルは優秀だよ。それこそ学年でトップクラスに位置するほど。ま、見た目からは全く予想できないんだけどね」 (そんな生徒を転入生にあてるなよ!) カレンの説明に、またもやルードに対して怒りを燃やすアレクだった。 「先生に棄権する、と言ってきましょうかね……」 「え?アレク、どうして?」 「いえ、皆さん武器を持っている方もそれなりにいらっしゃるのに、丸腰の私では相手にならないだろうと、思いまして」 「……そんな、ことはない」 「……そうですか?」 アレクの言葉を真っ向から否定したリリー。 「……私達レベルでは、剣や槍をメインに戦える人間はほぼいない。ほぼ魔法合戦がメイン」 「なるほど、つまり―――魔法さえ使えれば、それなりな勝負もできるはず、ということですか?」 リリーの言葉が本当ならば、それなりに勝機はあるのかもしれない。 「……実際、火球や土石を飛ばす程度の初歩的な魔法。その程度ならもちろん兄さんもできる」 「うん……――――うん?兄さん、とは私の事ですか?」 「……間違えてた。言い間違い。ごめん」 「いえ、そういう間違いはあるものですよね」 「……そういってくれると助かる」 和やかな会話に見えて、アレクは口元が引きつりそうになるほどの動揺を隠すのに必死だった。 (危ねぇ!あと少しでそのまま、返事してしまうところだったじゃねぇか!) いい間違えちゃった、とばかりに謝罪したリリーだったが、その目は一瞬たりともアレクから目を離さないようにするかのようであった。 それから鑑みて、リリーがアレクを「兄さん」と呼ぶことで彼の反応を伺っていたのは明らかだ。 彼がそれに気づかなかったなら、リリーの持つ疑いは確信に変わったかもしれない。
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