擦り切れた記憶

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あの日。 まだ犬を飼っていた時だ。 もう亡くなってしまったけれど…。 あの日、私はいつも通り、犬を連れて散歩。 その時、後ろから突然 「ねぇ、名前なんてゆうの?」 振り返ると、自分と同じくらいの歳の男の子。 まだ人見知りをしなかった私は、 「カナだよ。」 「カナ、可愛い名前だね。」 彼はそう言いながら、犬の頭を撫でた。 この時、自分の過ちに気付く。 彼は私の名前ではなく、 犬の名前を聞いていたのだ。 犬の散歩中、 普通名前を聞かれたら、それはやはり…犬の名前だろう。 「ぁ…ごめんなさい、カナは私…。」 頬が赤らめるのを、自分でもわかる。 彼も驚きながら私をみたが、すぐに笑って 「可愛いね」 彼は私の失敗が可愛かったのかな? それとも私自身? 「はぁ…。」 いつもここから先が思い出せない。 その代わり、彼の無邪気な笑顔を、今でも覚えている。 多分、初恋だった。 物思いにふけていると、ぼんやりしがちだが 無意識に、十字路を左に曲がる。 ここを曲がると、校舎の近くの為、人通りが急に多くなる。 そして、いつも感じるヤラシイ視線。 自然と手で胸を隠すが、隠れきらない。 (あぅぅ…) やるせない気持ちを誤魔化す為、周りの人達の話し声に耳を傾ける。 「ねぇ、昨日ヤッた~?」 「ん?英語の宿題?」 そこでハッとして、自分のカバンの中をみる。 (…ない) 机の上に置いてきてしまったみたい。 取りに帰ろうか迷い、時計をみる。 走っても間に合いそうもない。 諦めるしかなさそうだ。 私はそのまま、校舎に入り、下駄箱で靴を替え、廊下を歩く。 「あ、妹背牛さん。」 こんな時に英語の先生に会ってしまう。 若くて、結構綺麗な先生。 ちなみに、クラスの担任。 「ちょうど良かったわ、 今日の宿題、一時間目始まる前に集めといてくれる?」 「…はい。」 「今日忘れた人は罰ゲームって、言っといたから いないと思うけどね~。」 「あぅ…。」 「あら、もしかして…?」 「…忘れてしまいました。」 朝から色々ついてない。 私は、教室に入り 一人ずつ、宿題を集めていった。
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