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炎で完全に無力化した事を確認すると哉は跋難陀へと慌てて駆け寄る。
「華龍!!無事か!?すまない、無茶をさせて」
跋難陀の前に膝を折り状態を伺う。顔を見ようにも俯いてて見る事が出来ない。
「大丈夫、よ。手足はまだ痺れてるけど、怪我は、ないわ」
「そうか・・・。よかったぁ・・・」
心底安心し、哉の表情が闘いの時とは別人と思うほど柔らかいものへ変化する。
「そんな間抜けな顔しないの。それでも私たちの主様?」
くすくすと、闘いの最中だという事を忘れからかうような笑みを見せる跋難陀。
「仕方ないだろ。お前の事なんだ。心配して何が悪い」
「あら・・・」
真っ正面から返され跋難陀も二の句が継げない。言われる方は少し恥ずかしいんだけど、哉ってば気にしないのよねぇ。
「ぐ・・この程度・・・!」
完全に蚊帳の外。いや、既に敵としてすら見てもらえず完全に無視されていた。
このような屈辱、応竜に味あわせたのは主以来だった。いや、それ以上だった。
たかが竜神ごときが・・・!たかが、出来そこないの迦具土風情が・・・!!
これ以上ない屈辱に侮辱。八つ裂きにしてもまだ足りない。生き地獄でもまだ生ぬるい。ありとあらゆる苦痛と絶望を与えなけれならない。
だというのに―
「迦具土風情の炎など・・・!!」
必死に押し返そうと障壁を何重にも築き通力をぶつける。
ぶつけた通力は即座に燃やし尽くされ、何重もの障壁は一枚を残し焼き尽くされる。
遊ばれている。今すぐにでも殺せるのに殺さずにいる。応竜からすればこの時点から既に生き地獄だった。
「お前さぁ、またあの名で俺を呼んだろ。そんなに死にたいのか?」
ゆらりと、炎を統べる死神が跋難陀の前から立ち上がりゆっくりと近づく。
「本当はもっと苦しませてやりたいんだけど、気が変わった」
いっそ優しいとすら思えるほどの笑みを浮かべ、静かに嗤う。
「塵どころか影も残さない」
静かに下される終焉。その死神の宣告は絶対。覆されることはない。
ゾクッ!
応竜の心臓が直接掴まれたみたいに苦しくなり、体中が冷え切っていく。
(我が、恐怖を感じている・・・。これが、迦具土・・・!?)
もはや抵抗する意思すら奪われ、応竜は綴られる死の宣告を聞いていた。
「其は神をも貫く獄炎の刃。十拳剣!」
極大の皮肉を込めた、哉が持つ最大最強の術。血色の炎が応竜を中心に天を焼き尽くすほどの柱を生みだす。
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