逆 鱗

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反動。強力な術はそれだけ術者に来る反動も強い。通常、術者の錬度が上がれば反動も少なくなる。 しかし哉が今行使していたのは迦具土の力。人の器には大きすぎる、本来扱えないものだ。 哉の魂は確かに神にも属する。が、その器たる身体は人のもの。迦具土の力に耐えきれる訳もない。 ましてやここは貴船。水神たる高淤の土地。哉にとってここは鬼門にすら等しい。 「哉!!お願い!目を開けて!!」 血に汚れるのも構わず傍らに膝を折り哉の身体を抱える。 いくら呼びかけても身体をゆすっても反応はない。それどころか身体が冷えていく。 己の激情に身を任せそんな事も忘れていた己が腹立たしい。それ以上に、哉がいなくなるかもしれない。それが、怖い。 「哉・・!!ねぇ・・・!お願いだから、眼、開けてよ・・!ねぇ・・お願い・・だから・・・!!」 哉を失うかもしれない恐怖から顔がゆがみ、涙が溢れてくる。 哉を失いたくない、その願いのこもった泣き声混じりの悲痛な声。 意識を取り戻そうと声をかけても身体を揺すっても反応はなく、ただ哉の身体が冷えていった。 「落ち着きなさい、跋難陀」 そこに鮮やかな若草色の狩衣を纏った女性が現れた。動転し涙が溢れている跋難陀とは対照的に、こちらは落ち着き払っていた。 「落ちつける訳ないでしょう!!風神!!」 あまりにふざけた言葉としか思えず、跋難陀は風神に食ってかかる。最愛の人が死にかけているのだ。落ちつける訳がなかった。 「そうですか。なら、実力行使でいかせもらいます」 「なにを・・・っ!?」 一瞬して跋難陀の意識は奪われ、哉と一緒に風に救われ宙に漂う。 和修吉が哉の命で今この場にいない以上、自分がやるしかなった。 「安倍晴明なら」 かの稀代の大陰陽師ならきっと哉の命も救える。一縷の希望、晴明に全てをかける。 貴船の最奥、突如上がった巨大な火柱に気を取られた昌浩達。 「あれは・・・!?」 最も驚いているのは紅蓮だった。十二神将最強の火将に勝るとも劣らない火柱。 「最強の名は返上した方がいいんじゃないか」 平坦な声で勾陣が言ってくるが、紅蓮に返す言葉はない。返す暇がなかった。 「勾!」 「っ!?」 火柱の方に気を取られ土竜が放つ礫の息吹への反応が一歩遅れる。 (躱しきれない!) 直撃を喰らうと覚悟した瞬間、緋炎の槍が礫の全てを叩き落としていた。
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