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蘇生を試みようとした矢先、突然現れた気配に止められ晴明は身体ごと向き直り、太陰達も僅かに身構える。
「・・・何者」
油断はしない。この眼前に立つ男はいきなり現れた。何の脈絡もなく。
しかし、どこかで全く油断しない。と言えば、嘘になるかもしれない。この男は似すぎていた。哉に。
伸びたままにされているが、髪と着ている狩衣が少しくすみ灰色とも見える白くなった哉。
もしかしてこの男は哉の―
「骸!?」
「・・・まさかあなたが来るとは思いもしませんでしたよ」
心底意外だったのか、跋難陀も風神も目を開き驚きを隠さない。
「仕方ないだろう。私はまだ死にたくないしね」
軽い調子で応える骸と呼ばれた男。かれこれ千年以上生きているがまだまだ生に執着はある。
「さて、どいてくれるかな。安倍晴明」
にっこりと笑いながら有無を言わせず迫力を出す骸。
その笑みにどのような意思が込められていたのか。晴明も太陰達も抵抗しようとすら思わなかった。
不安になり晴明は跋難陀と風神に視線を送るが、二人は大丈夫だという視線を返してくるのみ。
「全く、もう少し無茶は控えてくれるとこっちも心労はないんだけどねぇ」
言いながら骸は掌に球体を作り始めた。温かく、そして力強い波動を感じる。
掌を返し球体を哉の身体に押し込んでいく。
哉の身体が仄かな光に包まれ、光が止むと頬に朱がさし生気に満ちた表情を取り戻していた。
「これで大丈夫」
「今回ばかりは礼を言わせてもらいます、骸」
「ああ、いいって。私が死にたくなかっただけだから」
「それでも、哉を救ってくれたのは事実です」
正座し深く深く感謝を示す風神に、哉の傍らで手を掴んで涙を流す跋難陀。
「ん~、感謝されるのって苦手なんだよなぁ。こう、むず痒くって」
頬を掻きながら若干居心地が悪そうな骸。
「私からも感謝させていただきます。彼の神の片割れよ」
急に割って入った晴明の言葉に骸の柳眉がぴくっと上がる。
「へえぇ。私と哉の事知ってるんだ?闇淤かな。教えたのは。それに賢しい言い方だ」
雰囲気が変わった。温かいと感じた気配がいきなり、身を切り裂くほどに冷たい物に変わる。
火之迦具土神。その死したはずの肉体に新たに宿った存在。それが骸。晴明が言ったように、迦具土の片割れである。
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