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恋というわけではなかった。
最初から、少しだけ特別な存在だった。
初めて会ったときの印象は、黒だった。
黒い髪。黒いコート。
鋭利な刃物のような目つき。
ああ、この人は絶対に誰にも心を開かないんだ、そう思った。
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「なな、わりぃ!お待たせ。」
「祐介、おそーい!」
この時、私には大学4年生のときから付き合っている彼氏がいた。
「24にもなって遅刻癖が直らないとはね。」
「反省してますって。ほら、行こう!」
祐介が仕事で地方へ転勤してから丸1年。遠距離にも少し慣れてきていた。
「でも、よく私の誕生日覚えてたね。」
「彼女の誕生日を忘れるわけねーだろ。」
「フン、去年の祐介にも同じセリフ言ってもらいたかった。」
「それを言うなって…。」
12月24日、火曜日。都会の複雑な人ごみの中を、手を繋いで歩いた。
和歌町交差点で信号待ちをしていると、ビルの間から西日が射していて、眩しかった。私は祐介の影に入った。
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