聖女

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 夜半、執務室の扉を軽く叩く音でアザルト連邦国主、リリアーヌは現実に引き戻された。いつも他人に体を労れだのと云っているが、どうやら案外自分もできていないようだ。眠気を払うように軽く首を振る。 「――リリアーヌ?いるのか?――もう、寝てしまったのか?」  扉の向こう側からかけられる声に、リリアーヌは再びはっとなった。 「私なら起きていますよ、シスター。どうぞ」  そう云って女王は笑顔で配下の将を迎えた。 「こんな遅くに、ご苦労様です」  笑ったのに、入室した将軍から返ってきたのは不服そうな言葉だった。 「お前こそ、ちゃんと寝てるのか?あまり根を詰めるなよ、今お前に倒れられたら、一気に他国に付け入られる」  その言葉に王は苦笑した。 「分かってます」 「ん……ならいい。――やはり明日にした方がよかったか?戻ってきた時マリアベルがお前が起きていると云ってたから、一応報告だけでもと思ったんだが」 「いえ、むしろ疲れているところに来てくれて、ありがとうございます」  流石に疲労の色が滲んだ顔をした配下に席を勧め、彼女は手際よく近くの水差しから水を注いで手渡した。本当は酒の一杯でも出してやりたかったが、生憎と王本人の節約指向のためこの部屋にそんなものはないし、晩餐でも滅多に振る舞われることはない。 「ありがとう」 「それで、戦況は?使者から勝利したことだけはききましたが」  問うとシスターの顔が一瞬翳った。コップの水を干して、かたり、と下ろした。それから数拍間をおいてから、漸く彼女は口を開いた。 「――…勝った。ギリギリではあったが、なんとかな。……これで当分はネクロスもうちの侵略は断念するはずだ」  よかった、と云いかけた王の言葉をしかし、シスターは遮った。 「だがこちらの損失も著しかった。向こうも相当頭の回る軍師がいるな、手紙、とかの効果でかなり危なかった。――向こうの兵はほぼ全滅に追い込んだ。だが、我々の方も、生き残った人数は出陣時の四割程度だ」  王は息を呑んだ。 「――四割」 「すまん……っ。なるだけのことは、したんだが……」  苦い顔で俯く将軍に、聖女は笑ってその肩に手を置いた。 「――頑張ってくれて、ありがとうございました。今日はもう休んで下さい。――といっても、もう日付は変わっているようですが」 「リリアーヌ……」
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