閃光

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 次に会ったのはいつだったかは思い出せないが、会う度にその子供は幾分か大きくなっていて、それでも必ず修練場で大きすぎる杖と戦っていた。その様子がいつも子供ながらもあまりに一生懸命なので、ある日そいつに訊いてみた。 「なあ、ガキ」 「ガキじゃない」  手を休めることなく返した子供に肩をすくめてシスターは云い直した。 「んじゃリル」  こう呼ぶと子供は何故か必ず嫌そうに顔をしかめた。まるでその名前が大嫌いであるかのように。 「オメェはなんでリリアーヌを助けようと思ったんだ?」 「……助けてもらったから」 「誰が?」 「……村の人みんな。リリアーヌ様が来て下さなかったら、戦に巻き込まれて根絶やしにされてた」  どうやらその過去に触れられたくないようなのでそれ以上訊かないでおこうと思ったら、珍しくリルの方から付け足した。 「でも、ほんとはそうじゃない」 「――ほう?」 「ほんとは、もう一度リリアーヌ様の目に映りたいから」  ちらっとシスターを見て、リルは云った。 「前に助けてもらった時、一瞬リリアーヌ様の目が見えたの。鳶色で、凄く綺麗だった。なんていうか、こう、生きてる感じがしたの。閃光みたいでね」  饒舌に語るのは嬉しいからだろうか。何度も話しかけていて今日のようなことは初めてだ。 「そこに自分が映ってるのが分かったの。それが嬉しかったから、もう一度、陛下に見てもらいたい」  そう云って笑う顔は、初めて歳相応に柔らかかった。じっと見つめられていることに気づいて、リルは杖を振るう手を止めた。 「どうしたの?」 「ん、あ、いや――。俺も前にそう思ったな、って」 「――角の人も?」  子供が目を丸くする。角の人、という名称にシスターはその子供をぶっ飛ばしてやりたい衝動に駆られたが、相手は子供だと自分を抑えた。そういえばまだ名前を教えていなかった。 「角の人じゃねェ、シスターマフィンだ。そうだよ。幾つもの戦場を駆けてきたはずなのに、あいつの目は不思議と生きてるんだ」  ルスランから解放してもらったからじゃない。多分、自分もリリアーヌのそこに惹かれて、今日まで従ってきたのだ。再び杖を回し始めたリルを見ながら、そんなことを考えた。
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