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やがて年月は過ぎ、リルは更に腕を上げ、マフィンの紹介でマリアベルに魔法を教わるくらいになっていた。何度目かの魔導書への誘いを断ったリルを、相変わらず間接的にだが上司である自分の酒盛りに付き合わせたことがある。
「魔導書になれ?ちょっと将軍、それ本気で云ってんレスか?」
戦場では鬼神のような働きを見せるリルだったが、一方で酒には物凄く弱かった。逆にザルのマフィンは次々にボトルを開けながら、
「いいじゃないか。何も直属になることがリリアーヌを助けることじゃないんだぞ?相性としてはむしろマリアベルの軍の方が力を発揮できるだろう」
「あはは、相性としては、だって。将軍、意外と真面目れすにぇ~」
「馬鹿にしてんのか」
「いえー?れも、直属になるのって、配下であるのとは違うんれすよー」
まぁ、それもそうだが……。
「ほらぁ、配下ってただの下っ端でしょ?でも魔導書ってマリアベル将軍を守るための集団じゃないですかー。そんなのに入ってたら、ひっく、私はいつか、リリアーヌ様のために死ねなくなります」
「――オメェはリリアーヌのために死ぬことが目的なのか?」
将軍の目付きは自然ときつくなる。昔から、その言葉にだけは頷けなかった。その瞳に映りたいと、無邪気に話していた少女から死にたいという言葉がききたくなかったからかもしれない。
「ええ、リリアーヌ様が助かるなら、それもいいですね」
「――おい!」
「勘違いしないで下さいよー。私だってまだ諦めたわけじゃない。いつかリリアーヌ様の瞳に映るまで、リリアーヌ様のために生きていたい。――でも、将軍。人ってやっぱり、いつかは死ぬものだから」
笑う少女の顔は儚く、美しかった。
「同じ死ぬなら、私はリリアーヌ様のお役に立って、死にたい」
「――リル」
「ねぇ、将軍。――愛しているんです」
自分のぎょっとした顔に、少女は静かに笑い声を上げた。
「やだな、恋愛対象としてじゃありませんよ。ただ、唯一無二の主として、限りなく――陛下をお慕い申し上げています。陛下のことを考えると、目頭が熱くなってくるんです。仕えられることを誇りに思います。陛下のために生き、陛下のために何かを為し、陛下のために死ねるなら……きっと私はこの世で最も恵まれた、幸せで満ち足りた人生を送ったことになるでしょうよ」
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