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――そして、今日に至る。
親征を開始した女王に従い、マフィン自身も戦場を駆けていた。地の利もあったから、戦は手早く終わった。リリアーヌも無事だったし、兵力の損耗も多分最小限に抑えられた。
事が起きたのは戦が終わった後である。
馬を降り、自ら助かりそうにない兵に最期の止めを刺して回っていた女王の背後から、錯乱した敵兵が突如斬りかかったのだ。
「リリアーヌ!!」
マフィンも必死に弓を引き絞ったが、間に合いそうにない。
(リリアーヌ!!)
そう思ったマフィンの大きく見開かれた目に、一人の人影が映ったのはその時だった。
どこからともなく現れた、という表現以外しようがない。魔法で瞬間移動したその人物は、王の盾になるような格好で彼女を庇う。鎧の隙間の、丁度首の部分が斬られ鮮血が飛び散ると同時に、マフィンの放った矢が敵兵の喉笛を真横に貫いた。
「っ……馬鹿野郎……なんで今死んじまうんだ。オメェ、この間聖女親衛隊に入ったばっかじゃないか」
死にたがりのオメェが、少しでも生き延びる確率が高くなるように、稽古をつけて、マリアベルにも会わせたのに……結局オメェは、遠距離攻撃のために学んだその魔法を、主人の身代わりになる以外のことに使えなかったのか。
「……シスターマフィン」
かつての配下を抱き起こした彼女の肩に、王がそっと手をかけた。
「……なぁ、リリアーヌ。勝手を云ってすまんが、こいつを英雄にしてやってくれないか?」
意外な頼みに王は目を丸くする。
「え?ええ、私もそのつもりでしたが。名前は確か」
「――いや、名前はいい。書いたら多分こいつも怒る」
「――はあ。……?」
「その代わり、墓標に一言入れてやってくれ。大馬鹿者――いや、この世で最も幸せな死に方をした者、とか」
――どうやら、こいつは間に合ったみたいだから。
死に顔は誇らしく笑んでいて、一瞬巡り逢えた何かを逃すまいと、目を開いたままだったから。
「……閃光、でもいいな」
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