Chapter.1

9/33
前へ
/165ページ
次へ
 銃の冷たい感触と、樹さんの寒気立つ迫力を前に、座椅子で踏ん反り返っていた俺の体は硬直しきっていた。  樹さんのこの行動……とても冗談には見えない。 「レン、あなたは何?」  眉間に銃口を押し付けたまま、樹さんは低いトーンの声で俺に尋ねる。 (なに……なに……なに? ってなんだ? 俺は殺し屋。そう殺し屋だ) 「殺し屋……」  俺が樹さんにそう言うと、彼女は銃を持つ手に更に力を込め、 「違う! レン、あんたは片桐総二(そうじ)の息子! 殺し屋である前にあの人の息子なの!」  眉間が銃口に押さえ付けられ痛む。  樹さんは自身が感情的になっている事に気付いたのか、はたまた俺の表情から心境を読み取れたのか、力を弱めると、 「もう受けた依頼だ。後戻りは出来ないよ」  そう言うと静かに銃を懐へ仕舞った。  樹さんのあんな一面、俺は初めて見た。  訓練の時も怒鳴られはしたが、それとは全く違う……別の何か。  俺は再び座椅子にもたれ掛かり直すと、何やら物を準備している樹さんを横目に依頼内容を反芻していた。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!

196人が本棚に入れています
本棚に追加