Chapter.1

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 そして思う。  俺は樹さんが銃を仕舞うまでの間、身動き一つ出来ず、更に言えば、いつ銃口を眉間に押し付けられたのかすら分からなかった。  今更抗った所で樹さんはこの依頼を撤回する事はしないだろう。  こういったものは信頼や実績が大事であり、樹さん程の手練れならともかく、俺のような新人が依頼を断ろうものなら、それは今後の仕事に支障が出る。  樹さんと俺の力の差は先のやり取りから分かるように歴然だ。  それに、樹さんには返しきれない程の恩がある。 「分かったよ。やるよ。女の子一人くらいやってやるよ」  正直、本意ではなかった。  幾ら仕事とはいえ一般の、しかも女子高生を殺すなんて正気の沙汰とは思えない。  依頼人の顔を拝んで、その眉間に風穴を空けてやりたいとさえ思う。  樹さんは樹さんで相変わらず厳しい表情のまま、彩波学園の制服だとか、書類だとかを先程から準備していたらしく、それらを俺に渡すと、 「レン……期待してるわ」  そう言い残し部屋から出て行った。 (まいったなぁ……)  俺は制服を見つめながら明日からの事を考えたが、良い案などは出る訳もなく、深いため息しか出てこなかった。
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