Chapter.1

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 樹さんは相変わらず騒がしい人だ。  結局は学園について感想を述べただけだったのだが、彼女はそれに対して満足でもしたのかあっさりと帰って行った。  帰り際に、 「一ヶ月といわず一週間以内でキメちゃいなさい」  と、笑顔で言われはしたものの、その時の声が、なんだか元気なくて違和感を感じざるを得なかった。  俺には、もし、どうして樹さんに元気がないのか? と、問われたとしても、それに答える事は出来ないだろう。  彼女は人の心は読むが、決して自分の心の内を人には見せない。  もしかしたら、昔は親父達……仲間には見せていたのかもしれないが、少なくとも俺には見せたりしない。  それは彼女が強くあろうとしてなのか、俺には見せる必要がない、と思っているのか。  どちらにせよ、寂しい事に変わりない。  真っ暗で静かな部屋に一人。  別に問題はない。  樹さんは保護者だと言っても、俺が小さい頃はよく仕事で、当時住んでいた家を空ける事が多かったから。  最初は不安で不安で仕方なかったけど、年月が経つにつれ、そんな不安も感じなくなっていった。  だから一人には慣れている。  慣れているとはいえ、やっぱり少しは寂しいものだが。
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