Chapter.3

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「レン! あまり遠くへ行ったら駄目よ!?」  俺の名を呼ぶ懐かしい声。優しく、柔らかく、透き通るような声。 「母さん! 大丈夫だよ! ほら!」  碧い双眸の幼い少年は、母親へ自慢するようにわざと大きな岩に登ってみせる。  緑が青々と茂る小高い見晴らしのよい丘。初夏と思わしき爽快な風が吹いている。  丘の頂上には大きな木が一本。どっしりと、丘から眼下に広がる景色を見守るように聳えていた。  丘のすぐ近くには豪華な屋敷があり、そこでは様々な人々が忙しく出入りしている。 (これは夢なのだろうか?)  ふとそんな事を思った。  あの幼い少年は間違いなく俺だ。  幼少期は母の実家で暮らしていたと、樹さんに聞いてはいたが俺には当時の記憶が殆ど無い。 「あ! 危ない!」 「うわっ!」  幼い俺は調子にのったあまり、登っていた岩から足を滑らせた。  しかし、どさっという地面に接触する音はしない。 「あ……ピン!」 「レン大丈夫かな?」  幼い俺は長い黒髪が象徴的な女性に受け止められていた。 (いつき……さん? でも──)  幾分か若くはあるが、声や容姿は自分の良く知る人物だった。  ある一カ所を除いては。
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