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BGMが止み照明が落ちる。楽屋側のステージ脇に目をやると、そこからサワちゃんと桐谷が歩いてくる姿が見えた。と同時に爆音のSEが流れ始め客席は一気に熱気を帯びた。
心地良い振動に合わせて心拍数も上がり、程良く胸を締め付けられる感覚に身を包まれる。そうこうしているうちにサワちゃんが座り、桐谷がベースを肩に掛けて客席に向かって中指を突き立てる。私の後ろからは黄色い歓声と力強く押してくるファンの波、やっぱりいつも通りファンの数はダントツだ。
私は静かにサワちゃんに目を向けた。長い指でスティックを回す姿に目を奪われた。気付けば薄暗い中でサワちゃんも私の方を見ていて、何故か今は爆音のSEもほとんど気にならない。私の胸はどんどん高鳴り、心臓の音が妙にうるさく聞こえる。ステージを見上げた時SEがピタッと止み、4カウントで曲が始まった―――
穏やかな笑顔のサワちゃんは、さっきまでとガラッと表情を変え真剣な顔つきで、手数の多い、それでいて安定したドラムを魅せてくれる。ツーバス踏めるんだ…と、周囲は勢い良く頭を振り乱す中、ハードロックバンドを観ている事も忘れてただ静かにサワちゃんに見入ってしまった。
桐谷はぼーっとする私に気付いたのか、目の前の手すりに脚をかけ膝を私にぶつけてきた。我に返った私はようやくDDのステージに集中することが出来、無事ライヴが終わった後で桐谷にはしっかり怒られた。
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