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チチチチチッ…
太陽が登って間もない空をすずめが飛んでいく。今日もよく晴れそうだ。
ブゥン!ブゥン!ブゥン!
とある民家の庭先、紺色の道着に身を包んだ少年が木刀を振っていた。民家が道場らしき建物と繋がっているところを見ると、おそらくその道場の門下生だろう。
「1998!1999!2000!フゥ~…。朝稽古終了っと」
素振りが終わったところで、少年、白凪飛鳥は道着の袖で汗をぬぐった。すると横から少女が近寄ってきて、飛鳥にタオルを差し出した。
「はい、お兄ちゃん、タオル」
「あぁ、ありがとう、沙弥」
飛鳥はタオルを受け取ると汗を拭いた。沙弥はさっきからニコニコしている。飛鳥はふっ、と気付いたように沙弥に尋ねた。
「まさかお前またずっと素振り見てたのか?」
「うん。だってお兄ちゃんが素振りしてると、汗で髪の毛がキラキラ光ってキレイなんだもん」
「フフッ、僕の髪をそんなふうに言うのはお前だけだよ」
飛鳥は苦笑いしながら自分の髪の毛を少しつまみ上げた。
変わったことに、少年の髪は銀色をしていた。確かに、沙弥の言う通り、汗と朝の日差しでキラキラと輝いている。
「そんなことないよ~。友達だって言ってるよ~。『沙弥ちゃんのお兄ちゃんの髪の毛ってキレイだね』って」
「それはそれは、物好きな子がいるもんだ」
飛鳥は汗を拭いたタオルを肩にかけた。
「あ~ああ~。何で私はお兄ちゃんとおんなじ髪の色じゃなかったんだろう。残念だな~」
「僕はほっとしてるよ」
飛鳥が少しだけ真剣な顔で言った。
「お前には、僕と同じ思いをさせたくないからね」
「お兄ちゃん…」
「さ、ご飯にしようか。早くしないと学校に遅刻しちゃうよ」
「…そんなに私のこと心配してくれてありがとう!」
沙弥はそう言いながら飛鳥に飛び付こうとしたが、頭を押さえられてできなかった。
「やめとけ。今僕に抱きつくと汗が付くよ」
「もーっ。兄妹のスキンシップをもうちょっと大切にしなさいよ~」
沙弥は口を尖らせた。
「はいはい」
飛鳥は沙弥の頭をクシャクシャッと撫でた。それで沙弥は幾分か機嫌を良くしたようだ。目を細めて嬉しそうな顔をした。
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