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幸い、その日飛鳥はそれ以上倒れることは無かった。
夕方、飛鳥は学校を終えて家に帰ってきた。家の鍵を開けて中に入る。
「ただいま」
家の中は静まり返っていて返事をする者は誰もいない。
しかし、それは飛鳥にとって当たり前のことだった。
沙弥はまだ学校だ。両親は仕事の事情で海外へと行ってしまっている。
飛鳥の武術の師でもある、白凪流師範の祖父は時たま、「世直しの旅へ行ってくる!」と叫んで木刀を片手に飛び出していってしまう。一体何処で何をしているのやら。
そんな訳で家事はほとんど飛鳥が行っているのである。お金や学費諸々は両親の仕送りがあるので問題は無い。
「さってと…」
帰ってきた飛鳥は早速夕飯の支度に取りかかった。
始めの内は料理の本を見ながらの料理だったが、次第に体が覚えていき、いつの間にか創作料理を作れる程の腕前になっていた。
「今日はハンバーグと…サラダと…」
飛鳥はぶつぶつと呟きながら冷蔵庫から野菜を出した。
「いい加減、沙弥に人参が食べれるようになってもらわないとな」
飛鳥はエプロンをつけ、袖を捲って手を洗うと人参を切り始めた。
沙弥のためにできるだけ人参を細かく切りながら飛鳥は今朝のことを考えていた。
これで何回目だろうか?初めて倒れたのは数週間前。それ以降、だいたい日に一回のペースで倒れた。
飛鳥は倒れる度に夢を見る。いつも飛鳥は知らない場所に立っている。
草原だったり険しい山道だったりした。古ぼけた部屋の中や、豪華なお城だったこともある。
場所は毎回違ったが、一つだけ毎回同じことがあった。
『…これからも…一緒に生きていこうね…』
場所がどんなに変わっても、何時でも隣には黒い服の少女がいた。顔は何故か良く見えないが。彼女は一体…。
「たっだいま~!!」
グサッ
「いってぇぇぇ!」
沙弥が後ろから飛び付いてきたので飛鳥は指を切ってしまった。
「包丁持ってる時は危ないから抱きつくなって言ってるだろ!?」
「ご、ごめん!今救急箱持ってくるから!💦」
ドタドタと沙弥は救急箱を取りに言った。
「全く…」
このことで気が散り、飛鳥は今朝のことを考えるのをやめた。
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