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「本当にごめんね~」
沙弥が飛鳥の指に絆創膏を貼りながら言った。
「全く…人参が血の味してても知らないからな」
「え゛?人参?入ってるの?💧」
沙弥があからさまに嫌そうな顔をした。
「もう中学生になるんだから人参ぐらい食べられるようになれよ」
「う゛~…。じゃあじゃあ、食べられるようになったら、デートしてくれる?」
「よぉし、じゃあ明日の晩は人参づくしにしてやるから、それが全部食べれたらいいよ」
「え、え~!!そんなぁ~…💦」
†
とりあえず、沙弥はハンバーグの人参を食べれたし、血の味もしなかった。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさま」
飛鳥と沙弥はきちんと手を合わせて挨拶をした。白凪家のきまりだ。
食事を作るのが飛鳥の役目で、片付けをするのは沙弥の役目。沙弥が片付けをする間、飛鳥はお風呂の準備をする。
そう、それは何気無い何時もの日常の風景。
その瞬間までは…。
†
「お兄ちゃ~ん、お風呂開いたよ~!」
風呂場から、寝間着姿の沙弥が頭を拭きながら出てきた。
「分かった」
飛鳥は読んでいた新聞を畳みながら立ち上がった。
するとその時、
バチィ!!!!
突然、大きな音と奇妙な発光が起こった。
「きゃっ!!」
沙弥が思わず飛鳥に飛び付く。
「今のは…道場からか?」
今はしんとしている。聞こえてくるのは隣の家のテレビの音や笑い声だけだった。
飛鳥は木刀を手に取った。
「様子を見てくる。沙弥はここにいて」
「え、え~!ひ、一人で待ってるの?嫌だよ~!💦」
沙弥は少し目を潤ませながら言った。
「もしかしたら泥棒かもしれないし、危ないから…」
「一人の方がよっぽど危険だよ~!お兄ちゃんと一緒にいた方が安全だよ!」
「…分かった。僕から離れちゃダメだよ」
「うん」
沙弥は飛鳥の服にしがみついた。
飛鳥の家と道場は渡り廊下で繋がっていた。飛鳥と沙弥は恐る恐る渡り廊下を渡ると、道場の中に入った。
「う~…」
「…誰もいない…?」
その時、暗がりの中で何かが動くのが見えた。
「ひっ!!」
「誰だ!?」
飛鳥は木刀を構え、沙弥は飛鳥の後ろに隠れる。
『…お久しぶり…いや、はじめましてですね。アスカ様』
子どものような声。声の主はゆっくりと歩くと、窓から差し込む月明かりの下に来た。
『私の名前は…』
「ね…」
「ね…」
『ね…?』
『猫ぉぉぉ!!?』
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