161人が本棚に入れています
本棚に追加
それを後押しするように村人から次々と声が上がった。
「ばばさまを連れて行かないでください!」
「そのお方は薬草で病気を治してくださるんだ!」
ばばさまがいなくなったら困るんだ!
しかしシド・フォーンはその訴えを一笑に付したのだった。
その場にいたものは皆、冷酷無比と言われる彼の、そのような姿を見たような気がしていた。
「さあ、参りましょう。共に世界を救うために」
シドはそう言ってナイルターシャの手を引いて行こうとしている。
マトが飛び出した。
その脇を別の影が走る。
そしてナイルターシャを守るように、彼女とシドの間に割って入った。
「待って!世界を救うのは、わたしの役目よっ!」
シドはその漆黒の瞳を瞬かせたものの、すぐに合点がいったようにナイルターシャを離した。
「大丈夫ですか?」
老女を支えると、
「どうして来たのです?」
と、まるで助けたことわ責めるように言ったのだった。
「なぜって、助けたかったからです」
「あなたにはあなたの役目が……」
ナイルターシャはそう言って、瑠璃の石の指輪を撫でた。
「世界を救うのがわたしの役目なら、ひとりを助けるのも役目です」
そして出来ることなら、戦火におびえる人すべてを助けたい。
「……」
蘭の言葉を聞きながら、ナイルターシャは無言で指輪を撫で続けている。
否定も、肯定もなかった。
(わたしの考え、間違ってる?)
.
最初のコメントを投稿しよう!